大高緑地「恐竜パーク」計画を考える

名古屋市緑区にある県営大高緑地公園内の樹林地に「恐竜パーク」を誘致する愛知県の計画について考えます。

8. 開示行政文書の検討(開示文書の公開)

行政文書開示の経過

 2015年11月24日付で開示請求した行政文書のうち、「同事業の契機および民間活力導入・同事業に関する検討経過・内容が把握できる文書」「大高緑地公園施設設置管理者選定委員会の配布資料および議事録・応募事業者の評価点」に該当する文書が12月15日に開示されました。

 また、「大高緑地公園施設設置管理者選定委員会の議事録(第2回)」「愛知県と株式会社エヌエーオーが締結した協定書」に該当する文書が2016年1月8日に開示されました。

 「設置予定の遊戯施設の具体的内容に関する文書」に該当する文書として、応募事業者である株式会社エヌエーオーが県に提出した企画提案書が2016年1月25日に開示されました。

開示行政文書の公開

 行政文書は県民の共有財産であり、この計画について考える上での参考資料としてお役立ていただければとの思いから、開示行政文書の写しをPDFファイルに変換したものを公開します(各文書名をクリックしていただくと、PDFファイルが開きます)。

※開示文書のうち、企画提案書については応募事業者が作成した文書であり、ウェブサイト上で公開した場合、掲載図表の著作権に抵触する可能性があるため、同文書のPDF公開は一部に限定し、PDFを公開しないページの記載内容は以下の文章上で適宜引用・紹介します。

開示行政文書から分かること

 公園のあり方検討

  • 2010年2月に策定された第五次行政改革大綱に大高緑地を含む「公園等施設のあり方検討」を2010年度から進める方針が明記された。
  • 2013年10月に開催された平成25年度行政改革の推進に向けた外部有識者による公開ヒアリングでは、外部有識者から公園施設等のあり方検討の「取組をスピードアップすべき」など、再検討が必要とする意見が多数を占めた。
  • 2014年12月に策定された第六次行政改革大綱に第五次からの検討を継続しつつ、地域との協働や民間活力の活用などの「新しい利活用方法の検討・実施」と「県営都市公園における名古屋市への移管協議」を進めることが明記された。

 事業予定地の設定

  • 第1回選定委員会で公園緑地課が示した「大高緑地の利活用方針」では、事業予定地の樹林地が「レクリエーションゾーン」に位置付けられ、「利活用促進区域」に指定されていた。

 事業者の公募結果

  • 事業者を公募した結果、募集要項の配布・受付は9社、説明会への参加は5社、応募は1社のみだった。

 事業者の企画提案

 ※「」部分は応募事業者の企画提案書からの引用。

  • 株式会社ネヌエーオー1社が応募した(以下、同社の企画提案書に基づく内容)。
  • 動いて吠える実物大の恐竜像30体を自然林内に設置し、自動運転の電動カート(定員最大5人)に乗って探検する体験型アトラクションが予定されている。カート道は延長1875mで、乗車時間は20分間、主な利用者としてファミリー層が想定されている。
  • 2012年5月に開業した岐阜県郡上市にある類似の営業施設の実績(半年の営業期間で年間約5万人の来場者)および大高緑地の立地条件(公園利用者数・ゴーカート利用者数など)、営業期間(通年)などをもとに、年間約10万人の来場者を見込んでいる。
  • 利用料金はカートが大人1300円、小人900円、遊歩道が大人300円、小人200円とする(いずれも当日券、遊歩道は「全ての恐竜は周れない」)。
  • 恐竜関連商品などを置く売店・レストラン、自販機を設置する(「レストランは本体開業後、早期開業を目指す」)。建物、デッキにはスロープを設置する。
  • 「毎年恐竜施設の配置、恐竜の種類の入れ替えを実施する」など、飽きられない工夫をする。
  • 営業日は年中無休とし、営業時間は土日・夏休み期間は9:00~18:00、平日は10:00~18:00とする。
  • 郡上市ひるがの高原でのキャンプ場の運営ノウハウを活かし、許可区域外で「本格的デイキャンプイベント」、「季節に応じ、各種イベントを開催する」。
  • 整備事業費として必要な資金は自己資金と借入金を合わせて1億3634万円を見込んでいる。※恐竜やカートはリースが予定されているため、この中には含まれていないと思われる。
  • 県への使用料として、2015年度は約643万円、2016年度以降は1287万円の支出が予定されている。
  • 応募事業者は1997年7月に設立され、資本金6500万円、従業員数20人。

 自然・生活環境への配慮

 ※「」部分は応募事業者の企画提案書からの引用。

  • 道幅約2mの「カート道の造成は極力地形に合わせたコースを計画し、切土、盛土を最小限に抑える。大きな立ち木は伐採せず、その他の樹木の伐採も最小限にとどめ、現状の自然林をそのまま活かす計画」としている。
  • 「カート発着場、売店等の建屋については自然傾斜を利用し、地山の形状は極力保つ。なお桜の木は伐採しない」としている。
  • 外観や騒音に配慮して恐竜施設の配置を工夫するとしている。「一方向にしか聞こえない仕様」のスピーカーを使用し、「近隣の住宅に迷惑にならない音量にする」。電動式カートのため、「音は静かであり、排気ガス等の問題もない」。
  • 樹林の保全(管理)方法として、「1.枯れ木、枯葉の除去を行う。」「2.劣等木の監視を行い、県と相談の上、除去をする。」「3.その他樹林、草木の植生の保全に努める。」「4.管理区域以外の周囲において、施設に影響を及ぼす場合は県に報告し、適切な処置を講じる」としている。
  • 「施設内への侵入を防止するフェンスを設置する」。
  • 「土日の混雑期は駐車場、公園入口付近などに警備誘導員を配置し、公園利用者、近隣の住民に迷惑が掛からないよう措置を講じる。」

 事業者の選定

  • 第1回選定委員会で公園緑地課が示した「募集要項(案)」の中で、100点×4人=400点満点で事業者を評価し、200点を基準点(最高得点者がこれを下回った場合は最終候補者を選定しない)とすることと評価基準(樹林地を活用した遊戯施設の魅力度:50点、安定的、継続的な管理運営:30点、来園者サービス向上等の取り組み:20点、および各項目の評価内容)が示され、決定された。
  • 第2回選定委員会の会議録をみると、委員と事業者間で経営面、安全面、サービス面に関する質疑がなされている。一方、自然環境、景観面、生活環境への影響など、住民から不安や懸念が示されている点に関する質疑は見当たらない。
  • 第2回選定委員会で応募した1社の企画提案を評価した結果、265点(400点満点)となり、最終候補者に選ばれた。 

 自然環境への影響

  • 樹林地に設置する各種施設の面積は計6065平方メートルで、敷地面積の約2割にあたる。
  • カート道は幅2mで約2km、遊歩道は幅1.5mで400mが予定されている。なお、これらの道を造成するために傾斜地に切土・盛土を施す工事が予定されていることがみてとれ、土地の改変面積は計算上の面積を上回ることが想定される。
  • カート道と遊歩道は設置後、県に寄付されることになっており、事業終了後はカート道と遊歩道は撤去されず、残されることになる(カート事業の終了後、あえてカート道を残す必要があるのか疑問)。

 工事スケジュール

  • 協定書に添付されている別紙3に開業までの工程(スケジュール)が示されており、協定書の締結段階では2015年12月から2016年5月にかけてカート道造成と建物建築が予定されていた。

 

開示行政文書では分からないこと

 事業の契機・検討経緯

  • 民間活力を導入して施設を設置管理することになったきっかけおよび検討の経緯が分かる行政文書の開示を請求したが、それらを把握するに足る文書が開示されなかったため、なぜ、民間事業者による施設の設置管理が決定され、どのような検討がなされてきたのかが把握できない。

 事業者の企画提案

  • 企画提案書の経営計画は資金調達計画、借入計画、開業後の収支計画、開業後の資金計画のほぼすべてが非開示(黒塗り)となっているため、経営見通しに関する検証は不可能。

 自然・生活環境への配慮

  • 施設周辺に設置予定のフェンスが具体的にどのような形状・高さになるかは企画提案書に明示されていないため、どこまで環境・景観に配慮したフェンスが設置されるかは不明。
  • スピーカー施設内に設置予定のスピーカーの具体的仕様、設置個所、音量は企画提案書に明示されていないため、実際に近隣の住宅地へどのような形で音が届くかは不明(恐竜の鳴き声のほか、園内アナウンス、雑踏による物音の発生も想定される)。

  事業者の選定

  •  第1回選定委員会は2時間開催されていながら、議事録はA4・1枚分しかないため、審議内容の詳細が把握できない。
  • 事業者による企画提案の評価項目は大項目のみが開示され、評価細目が非開示となっているため、具体的にどのような基準で評価がなされたのかが十分に把握できない。
  • 事業者選定の採点集計表は合計点以外の採点結果がすべて非開示となっているため、いずれの項目が評価され、評価されなかったのかがまったく把握できない。
  • 事業者選定の採点集計表は各委員の氏名が特定されないよう、A・B・C・Dと記載されているにもかかわらず、個々の委員の採点結果がすべて非開示となっているため、個々の委員がいずれの項目を評価し、評価しなかったのかがまったく把握できない。
  • 審査講評では「遊戯施設は景観及び自然環境に十分配慮しているか」が最も得点率が高かったとしているが、第2回選定委員会の会議録ではこのことに関する質疑は見当たらず、何をもって高評価とされたのかが不明。