大高緑地「恐竜パーク」計画を考える

名古屋市緑区にある県営大高緑地公園内の樹林地に「恐竜パーク」を誘致する愛知県の計画について考えます。

9. 恐竜パーク事業に関する開示文書の公開(その2)

7月に恐竜パーク部分開業 

 7月1日に「ディノアドベンチャー名古屋」が遊歩道の一部のみ部分開業しましたが、その後、2期オープンに向けた工事に着手する予定であることを知りました。

(参考)ディノアドベンチャー名古屋
 http://www.dinoadventure.jp/


 県からは7月の開業に関する発表はあったものの、同事業が自然環境や周辺環境に及ぼす影響や対応策など、住民が心配している点については依然として説明がないままのため、8月31日付で行政文書の開示(情報公開)請求を行いました。開示請求にあたっては、以下の内容で申請しました。

行政文書の開示請求の内容  

1. 大高緑地におけるディノアドベンチャー名古屋の開業に係る当初計画からの変更(事業内容、工事内容、工事・開業スケジュール等の変更)が把握できる文書一切
2. 施設の設置に係る工事・開業後の環境への影響の程度および環境への配慮のための措置が把握できる文書一切
3. 愛知県が有する都市公園の設置改廃・管理運営における住民・立地市町村等への説明および意見聴取・意見反映に係る法令・制度・手続・方針等が把握できる文書一切

開示請求に対する県の決定

 上記の開示請求について、9月14日付で以下の決定がなされました。

・1.に係る行政文書は「開示決定期間を延長」→10月14日付で「一部開示」決定
・2.に係る行政文書は「一部開示」
・3.に係る行政文書は「不開示」(文書不存在)

 このうち、2.に係る文書は10月3日、3.に係る文書は10月31日に開示・閲覧しました。
 なお、3.については、都市計画法などの定めを除けば、該当する制度がないため、該当する行政文書が存在しないとのことでした。説明会の開催など、住民への説明や意見聴取については、具体的な制度・方針はなく、行政の裁量により決定しているとのことです。

開示行政文書の公開

  行政文書は県民の共有財産であり、この計画について考える上での参考資料としてお役立ていただければとの思いから、開示行政文書の写しをPDFファイルに変換したものを公開します(各文書名をクリックしていただくと、PDFファイルが開きます)。

 

1. 大高緑地におけるディノアドベンチャー名古屋の開業に係る当初計画からの変更(事業内容、工事内容、工事・開業スケジュール等の変更)が把握できる文書

大高緑地における公園施設の設置管理に関する協定書の変更について(2016年2月9日付)
大高緑地における公園施設の設置管理に関する協定書の変更について(2016年4月18日付)
公園施設設置許可申請書(2016年2月9日付)
公園施設設置許可変更申請書(2016年4月18日付)
公園施設設置許可変更申請書(2016年5月16日付)
公園施設設置許可申請書(2016年6月20日付)
公園施設設置許可変更申請書(2016年7月29日付)

 

2. 施設の設置に係る工事・開業後の環境への影響の程度および環境への配慮のための措置が把握できる文書一切

公園緑地維持管理費の内環境調査業務委託 大高緑地名古屋市緑区大高町 報告書

8. 開示行政文書の検討(開示文書の公開)

行政文書開示の経過

 2015年11月24日付で開示請求した行政文書のうち、「同事業の契機および民間活力導入・同事業に関する検討経過・内容が把握できる文書」「大高緑地公園施設設置管理者選定委員会の配布資料および議事録・応募事業者の評価点」に該当する文書が12月15日に開示されました。

 また、「大高緑地公園施設設置管理者選定委員会の議事録(第2回)」「愛知県と株式会社エヌエーオーが締結した協定書」に該当する文書が2016年1月8日に開示されました。

 「設置予定の遊戯施設の具体的内容に関する文書」に該当する文書として、応募事業者である株式会社エヌエーオーが県に提出した企画提案書が2016年1月25日に開示されました。

開示行政文書の公開

 行政文書は県民の共有財産であり、この計画について考える上での参考資料としてお役立ていただければとの思いから、開示行政文書の写しをPDFファイルに変換したものを公開します(各文書名をクリックしていただくと、PDFファイルが開きます)。

※開示文書のうち、企画提案書については応募事業者が作成した文書であり、ウェブサイト上で公開した場合、掲載図表の著作権に抵触する可能性があるため、同文書のPDF公開は一部に限定し、PDFを公開しないページの記載内容は以下の文章上で適宜引用・紹介します。

開示行政文書から分かること

 公園のあり方検討

  • 2010年2月に策定された第五次行政改革大綱に大高緑地を含む「公園等施設のあり方検討」を2010年度から進める方針が明記された。
  • 2013年10月に開催された平成25年度行政改革の推進に向けた外部有識者による公開ヒアリングでは、外部有識者から公園施設等のあり方検討の「取組をスピードアップすべき」など、再検討が必要とする意見が多数を占めた。
  • 2014年12月に策定された第六次行政改革大綱に第五次からの検討を継続しつつ、地域との協働や民間活力の活用などの「新しい利活用方法の検討・実施」と「県営都市公園における名古屋市への移管協議」を進めることが明記された。

 事業予定地の設定

  • 第1回選定委員会で公園緑地課が示した「大高緑地の利活用方針」では、事業予定地の樹林地が「レクリエーションゾーン」に位置付けられ、「利活用促進区域」に指定されていた。

 事業者の公募結果

  • 事業者を公募した結果、募集要項の配布・受付は9社、説明会への参加は5社、応募は1社のみだった。

 事業者の企画提案

 ※「」部分は応募事業者の企画提案書からの引用。

  • 株式会社ネヌエーオー1社が応募した(以下、同社の企画提案書に基づく内容)。
  • 動いて吠える実物大の恐竜像30体を自然林内に設置し、自動運転の電動カート(定員最大5人)に乗って探検する体験型アトラクションが予定されている。カート道は延長1875mで、乗車時間は20分間、主な利用者としてファミリー層が想定されている。
  • 2012年5月に開業した岐阜県郡上市にある類似の営業施設の実績(半年の営業期間で年間約5万人の来場者)および大高緑地の立地条件(公園利用者数・ゴーカート利用者数など)、営業期間(通年)などをもとに、年間約10万人の来場者を見込んでいる。
  • 利用料金はカートが大人1300円、小人900円、遊歩道が大人300円、小人200円とする(いずれも当日券、遊歩道は「全ての恐竜は周れない」)。
  • 恐竜関連商品などを置く売店・レストラン、自販機を設置する(「レストランは本体開業後、早期開業を目指す」)。建物、デッキにはスロープを設置する。
  • 「毎年恐竜施設の配置、恐竜の種類の入れ替えを実施する」など、飽きられない工夫をする。
  • 営業日は年中無休とし、営業時間は土日・夏休み期間は9:00~18:00、平日は10:00~18:00とする。
  • 郡上市ひるがの高原でのキャンプ場の運営ノウハウを活かし、許可区域外で「本格的デイキャンプイベント」、「季節に応じ、各種イベントを開催する」。
  • 整備事業費として必要な資金は自己資金と借入金を合わせて1億3634万円を見込んでいる。※恐竜やカートはリースが予定されているため、この中には含まれていないと思われる。
  • 県への使用料として、2015年度は約643万円、2016年度以降は1287万円の支出が予定されている。
  • 応募事業者は1997年7月に設立され、資本金6500万円、従業員数20人。

 自然・生活環境への配慮

 ※「」部分は応募事業者の企画提案書からの引用。

  • 道幅約2mの「カート道の造成は極力地形に合わせたコースを計画し、切土、盛土を最小限に抑える。大きな立ち木は伐採せず、その他の樹木の伐採も最小限にとどめ、現状の自然林をそのまま活かす計画」としている。
  • 「カート発着場、売店等の建屋については自然傾斜を利用し、地山の形状は極力保つ。なお桜の木は伐採しない」としている。
  • 外観や騒音に配慮して恐竜施設の配置を工夫するとしている。「一方向にしか聞こえない仕様」のスピーカーを使用し、「近隣の住宅に迷惑にならない音量にする」。電動式カートのため、「音は静かであり、排気ガス等の問題もない」。
  • 樹林の保全(管理)方法として、「1.枯れ木、枯葉の除去を行う。」「2.劣等木の監視を行い、県と相談の上、除去をする。」「3.その他樹林、草木の植生の保全に努める。」「4.管理区域以外の周囲において、施設に影響を及ぼす場合は県に報告し、適切な処置を講じる」としている。
  • 「施設内への侵入を防止するフェンスを設置する」。
  • 「土日の混雑期は駐車場、公園入口付近などに警備誘導員を配置し、公園利用者、近隣の住民に迷惑が掛からないよう措置を講じる。」

 事業者の選定

  • 第1回選定委員会で公園緑地課が示した「募集要項(案)」の中で、100点×4人=400点満点で事業者を評価し、200点を基準点(最高得点者がこれを下回った場合は最終候補者を選定しない)とすることと評価基準(樹林地を活用した遊戯施設の魅力度:50点、安定的、継続的な管理運営:30点、来園者サービス向上等の取り組み:20点、および各項目の評価内容)が示され、決定された。
  • 第2回選定委員会の会議録をみると、委員と事業者間で経営面、安全面、サービス面に関する質疑がなされている。一方、自然環境、景観面、生活環境への影響など、住民から不安や懸念が示されている点に関する質疑は見当たらない。
  • 第2回選定委員会で応募した1社の企画提案を評価した結果、265点(400点満点)となり、最終候補者に選ばれた。 

 自然環境への影響

  • 樹林地に設置する各種施設の面積は計6065平方メートルで、敷地面積の約2割にあたる。
  • カート道は幅2mで約2km、遊歩道は幅1.5mで400mが予定されている。なお、これらの道を造成するために傾斜地に切土・盛土を施す工事が予定されていることがみてとれ、土地の改変面積は計算上の面積を上回ることが想定される。
  • カート道と遊歩道は設置後、県に寄付されることになっており、事業終了後はカート道と遊歩道は撤去されず、残されることになる(カート事業の終了後、あえてカート道を残す必要があるのか疑問)。

 工事スケジュール

  • 協定書に添付されている別紙3に開業までの工程(スケジュール)が示されており、協定書の締結段階では2015年12月から2016年5月にかけてカート道造成と建物建築が予定されていた。

 

開示行政文書では分からないこと

 事業の契機・検討経緯

  • 民間活力を導入して施設を設置管理することになったきっかけおよび検討の経緯が分かる行政文書の開示を請求したが、それらを把握するに足る文書が開示されなかったため、なぜ、民間事業者による施設の設置管理が決定され、どのような検討がなされてきたのかが把握できない。

 事業者の企画提案

  • 企画提案書の経営計画は資金調達計画、借入計画、開業後の収支計画、開業後の資金計画のほぼすべてが非開示(黒塗り)となっているため、経営見通しに関する検証は不可能。

 自然・生活環境への配慮

  • 施設周辺に設置予定のフェンスが具体的にどのような形状・高さになるかは企画提案書に明示されていないため、どこまで環境・景観に配慮したフェンスが設置されるかは不明。
  • スピーカー施設内に設置予定のスピーカーの具体的仕様、設置個所、音量は企画提案書に明示されていないため、実際に近隣の住宅地へどのような形で音が届くかは不明(恐竜の鳴き声のほか、園内アナウンス、雑踏による物音の発生も想定される)。

  事業者の選定

  •  第1回選定委員会は2時間開催されていながら、議事録はA4・1枚分しかないため、審議内容の詳細が把握できない。
  • 事業者による企画提案の評価項目は大項目のみが開示され、評価細目が非開示となっているため、具体的にどのような基準で評価がなされたのかが十分に把握できない。
  • 事業者選定の採点集計表は合計点以外の採点結果がすべて非開示となっているため、いずれの項目が評価され、評価されなかったのかがまったく把握できない。
  • 事業者選定の採点集計表は各委員の氏名が特定されないよう、A・B・C・Dと記載されているにもかかわらず、個々の委員の採点結果がすべて非開示となっているため、個々の委員がいずれの項目を評価し、評価しなかったのかがまったく把握できない。
  • 審査講評では「遊戯施設は景観及び自然環境に十分配慮しているか」が最も得点率が高かったとしているが、第2回選定委員会の会議録ではこのことに関する質疑は見当たらず、何をもって高評価とされたのかが不明。

7. 恐竜パーク事業に関する情報公開にみる問題点

 2015年12月15日、筆者が請求した行政文書の一部を開示するということで、県庁の愛知県県民相談・情報センターへ閲覧に行ってきました。今回開示されたのは以下の文書です。

「同事業の契機および民間活力導入・同事業に関する検討経過・内容が把握できる文書」「大高緑地公園施設設置管理者選定委員会の配布資料および議事録・応募事業者の評価点」に該当する文書

【全部開示】

・愛知県第五次行政改革大綱
・愛知県第六次行政改革大綱
・平成25年度行政改革の推進に向けた外部有識者による公開ヒアリングの結果
・大高緑地公園施設設置管理者選定委員会の配布資料の一部(評価基準(案)・採点表以外)
・第1回選定委員会の議事録

【一部開示】

*非開示部分は黒塗り
・大高緑地公園施設設置管理者選定委員会の配布資料の一部(評価基準(案)・採点表)
事業者選定の採点集計表

 

 開示文書の閲覧は県民相談・情報センターの会議室にて県公園緑地課の職員2人が立ち会う形で行われました。以下では、文書開示の際の当方と県公園緑地課とのやりとりについて報告した上で、情報公開制度の趣旨に照らした問題点を指摘したいと思います。

 

請求に対して不十分な文書開示

 今回、開示された文書のうち、「同事業の契機および民間活力導入・同事業に関する検討経過・内容が把握できる文書」に該当する文書として開示されたのは、選定委員会の関係資料を除けば、県の行政改革大綱2部と行政改革の推進に向けた外部有識者による公開ヒアリングの結果1部という計3部の文書のみ。選定委員会の関係資料以外の文書はいずれも県のウェブサイトに掲載されているもので、公園のあり方を検討するという大きな方向性は書かれているものの、本事業に直接関わることは何も書かれていません。

 そのことを指摘した上で、「お示しいただいた文書がそれぞれ請求内容のどの部分に該当する文書と判断されたのかをご説明いただけますか」とお聞きしましたが、口をつぐんだまま、お答えいただけませんでした。

「出さない」という頑なな姿勢

 そこで、現在進行中の本事業に関する検討経過・内容を把握できる該当文書がこれしかないというのはどう考えても不自然であり、情報公開条例の趣旨に則って、手元にある該当資料を誠実に開示すべきだと強く求めましたが、職員の方は「今回の請求内容について担当者の方で判断して、請求に対する内容に該当するものがこれだということでこの文書をお示ししている」と繰り返して譲りませんでした。

 また、「これ以外の文書の開示が必要であれば、再度必要な内容を記載の上、請求してほしい」の一点張りだったため、再度請求するには該当文書を特定する必要があるので確認させてほしいと前置きした上で、「事業の検討を進める際、あるいは事業者と調整を進める際、文書は一切作成せず、すべて口頭で行ってきたのですか」と質問しましたが、口をつぐんだまま。

 「事業の検討を進める上で文書を作成しないはずはなく、進行中の事業に関する文書を廃棄することも考えられない。担当者の方が事業を成功させるために苦労して作成された文書だということであれば、胸を張って開示すべきだ」と強く迫りましたが、返ってきたのはまたしても「請求内容について担当が該当すると判断した文書としてはこれだ」という説明でした。

行政の側で開示文書を取捨選択

 情報公開制度は県政に関する情報を公開し、県民が県政をチェックできるようにするための制度のはずです。しかし、県側が手元にどのような文書があるかを明かさず、実際には県が保有している該当文書を「ない」ことにしてしまえば、県民としてはチェックのしようがありません。このような情報公開制度の運用がまかりとおるとすれば、大変由々しき問題です。

 なお、開示決定に対して不服がある場合、行政不服審査法に基づく異議申立てをすることが制度上可能です。異議申立てをした場合、県情報公開審査会で審議されることになりますが、そこで結論が出されるまでには少なくとも数カ月を要します。今回のように開示請求の内容を曲解し、該当するはずの文書を開示しないというようなことはあってはなりません。

 しかし、今回の開示請求に対する該当文書はこれだけだと一歩も引かないため、やむを得ず、今回の開示決定に対する課の見解として一旦受け止めるとした上で、改めて開示請求しなおすとしても、当方として開示を求める内容について、どのような文書が存在するのか、当方と公園緑地課の間ですり合わせをした上でなければ、今回の二の舞になることは明らかだと伝え、後日改めて当方と公園緑地課の間ですり合わせを行うことになりました。

黒塗りによる過剰な非開示

 事業者の選定に係る評価基準と評価結果に関する文書は一部非開示(黒塗り)の条件で開示されました。県側は「今後の事業者選定の際、“今回の評価細目に挙げられたポイントだけを押さえて提案すればいい”という形で情報が使われてしまうと困る」「個々の委員が特定される形での採点結果・コメントの公表はできない」ことを開示しない理由に挙げました。

 ただ、実際に開示された文書を見てみると、上記の理由に該当しない箇所(大括りの評価項目ごとの採点結果および委員名を伏せた状態での各委員の項目ごとの採点結果)についても黒塗りされていました。そのことを指摘した上で、黒塗り部分の見直しを求めたところ、「隠すつもりはない」ということで職員の方も理解を示されました。

 この時点では、当方の指摘を踏まえて黒塗り箇所を再検討していただくことになったのですが、後日、「黒塗り部分の変更はしない」との連絡がありました。情報公開条例が挙げる開示しない理由に具体的に該当しない限りは開示しなければならないはずであり、不当な決定といえます。

情報公開制度の運用改善の必要性

 愛知県の情報公開条例には、情報公開を通じた説明責任の履行と公正で民主的な県政の推進を目的とし、行政文書の開示請求権の尊重を運用の基本とすることが定められています(下記参照)。

 それに照らして、今回の開示決定は情報公開制度の趣旨から大きく逸脱するもので、行政の都合で開示文書およびその内容を取捨選択した不当な決定であると考えられます。

 請求内容に該当する文書をきちんと開示していただければ、お互いに余計な労力を使わなくて済むと思うのですが…。強引に事業を進めようとすればするほど、余計な労力を使わないといけなくなることを十分認識していただき、住民と向き合って十分な説明を行い、意見を聞き、対話する姿勢へと転じていただければと思います。

 

注1)行政文書(情報公開の対象)の定義は「愛知県情報公開条例解釈運用基準」の中で定義されています。ご参考までに、行政文書の定義に関する規定を抜粋したPDFをアップしておきます。

 愛知県情報公開条例解釈運用基準(行政文書の定義に関する規定の抜粋)

注2)調べたい事柄に関して、実際にどのような文書が存在するかを確認したい場合は、各課で作成・保管している行政文書の「目録」も活用できるかもしれません。

【参考】愛知県情報公開条例(抜粋)

(目的)
第1条 この条例は、行政文書の開示を請求する権利につき定めること等により、実施機関の管理する情報の一層の公開を図り、もって県の有するその諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民の的確な理解と批判の下にある公正で民主的な県政の推進に資することを目的とする。

(解釈及び運用の基本)
第3条 実施機関は、この条例の解釈及び運用に当たっては、行政文書の開示を請求する権利を十分に尊重するものとする。この場合において、実施機関は、個人に関する情報がみだりに公にされることのないよう最大限の配慮をしなければならない。

6. 恐竜パーク事業に関する情報公開の請求

 2015年10月の発表以降、事業を担当する県の公園緑地課からは事業に関する住民への説明の予定の有無など具体的な説明はなく、筆者も何度か同課に問い合わせたものの、明確な回答は得られませんでした。

 そこで、事業の経緯や内容に関する情報を得るため、11月24日付で事業に関する行政文書の開示(情報公開)請求を行いました。開示請求にあたって、以下の内容で申請しました。

*オンライン申請では200字という字数制限があったため、それに収まるように書きました。

行政文書の開示請求の内容

○大高緑地公園内の樹林地における民間事業者による遊戯施設の設置・運営事業に関する以下の資料(担当課:公園緑地課)

1. 同事業の契機および民間活力導入・同事業に関する検討経過・内容が把握できる文書

2. 株式会社ネヌエーオーが提出した企画提案書

3. 大高緑地公園施設設置管理者選定委員会の配布資料および議事録・応募事業者の評価点

4. 愛知県と株式会社ネヌエーオーが締結した協定書

5. 設置予定の遊戯施設の具体的内容に関する文書

開示請求に対する県の決定

 県の情報公開制度では申請から14日以内に開示・非開示の決定を行い、申請者に通知することになっています。12月9日に公園緑地課から一部の文書の開示の準備が整ったとの電話連絡があり、12月15日に文書を閲覧することになりました。

 なお、12月15日に開示されることになったのは1.に関する文書と3.のうち、選定委員会の配布資料*と第1回の議事録、応募事業者の評価点*に関する文書でした(*は一部非開示)。残りの文書については事業者の意見を聞く必要があるため、1月8日まで開示決定を延長するとの通知が届きました。

※12月15日に開示された文書に関する顛末については、「7.恐竜パーク事業に関する情報公開にみる問題点」をご参照ください。 

5. 住民不在の事業立案・検討

大高緑地は県民の共有財産

 都市公園である大高緑地は県民の共有財産といえます。公園を管理する行政には住民のニーズや公園の公益性を踏まえた運営が求められます。そのためには住民の意見を十分に聞き、それを的確に反映させることが重要と考えられます。

「園内の話」住民の意見を聞かず

 しかし、今回の事業をめぐっては、県は施設を設置運営する事業者と協定を交わし終える2015年10月まで、住民に事業案を説明したり、住民の意見を聞いたりする機会を全く設けてきませんでした。これについて、県の担当者は中日新聞の取材に「園内の話なので、住民から意見を聞くことは考えていなかった」と答えています(2015年11月8日付中日新聞朝刊)。

 恐竜パーク事業は住民にとっては寝耳に水で、さまざまな意見や懸念が出されています。しかし、県は10月の発表以降、地元の区政協力委員を個別にまわって説明をしているものの、住民や公園利用者に十分な説明を行った上で広く意見を聞き、それを反映させるという姿勢は十分とはいえません。

事業の見直し求め1万5千の署名

 そうした中、住民の声を県に届けようと「大高緑地を愛する会」によって事業の見直しを求める署名活動が取り組まれ、2016年1月14日までに1万5千筆を超える署名が県に提出されています。

 なお、同会のFacebookの記事によれば、2回目の署名提出のため、同会が県公園緑地課を訪れた際、2度にわたり署名の受け取りを拒んだとのことです。署名提出は憲法16条で請願権として認められており、請願法第5条は「この法律に適合する請願は、官公署において、これを受理し誠実に処理しなければならない。」と定めています。署名の受け取り拒否があったとすれば、これに違反するものであり、「法律による行政」を行うべき県庁としてあってはならない行為です。

 この点について、筆者が公園緑地課に問い合わせたところ、「答えられない」の一点張りで、一方的に電話を切られました。

住民と公園・事業のあり方検討を

 本来であれば、公園全体はどうあるべきか、その中で事業予定地をいかに利活用していくかについて、住民や公園利用者らの意見を聞きながら決定していくというプロセスを経る必要があったと考えられます。

 県には本事業に関して住民への説明や意見を聞く姿勢が十分でなかったことを率直に認めた上で、住民と真摯に向き合い、住民とともに公園・事業のあり方を考えていくことが求められます。

4. 恐竜パーク計画に対するさまざまな意見

 新聞やテレビでの報道や筆者による聞き取りによれば、恐竜パーク計画について周辺住民や公園利用者らからは以下のような意見があがっているようです。

○周辺住民

 恐竜パークの開業が予定されている樹林地は閑静な住宅街のそばにあり、樹林地に最も近い住宅との距離は100mほどしか離れていません。恐竜パークでは恐竜の鳴き声をスピーカーで流すことが計画されており、騒音に悩まされることになるのではないかとの懸念や来園者の増加による周辺道路の渋滞発生などの生活環境への悪影響が心配されています。

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○公園利用者

 地元の自主保育グループは、恐竜パークが開業予定の樹林地や樹林地に隣接する若草山の広場を子どもたちが自然と触れ合える学びの場として長年利用してきました。また、樹林地やその周辺を日常的に散策する人も多く、同自主保育グループや環境団体などからは大都市に残る貴重な自然を学びの場として残すべきとして事業の見直しを求める声があがっています。

 一方、テレビのインタビューでは、新たなテーマパークができることを好意的に受け止める人、期待を寄せる来園者も見受けられました。

公園の使い方で分かれる意見

 散策や保育などで日常的に利用する地元の人や自然観察などで自然を親しむ場として利用する人と、園内の施設や催しを楽しむために来園する人とでは、公園の利用の仕方が異なるため、計画に対する賛否が分かれることにつながっていると思われます。

大高緑地の価値・魅力は何か

 また、公園としての価値・魅力をどう考えるかー大都市に残る貴重な自然として守ることに価値を置くか、テーマパークとして魅力度を高めることに価値を置くかーによって、事業に対する評価も分かれることになると思います。

 この点に関して、事業の見直しを含め、住民と行政の対話を通じた公園づくりを求める「大高緑地を愛する会」は2016年1月、生物多様性保全に向けた取り組みを打ち出している県の方針も踏まえ、公園を緑地保全ゾーン、里山体験ゾーン、ネイチャープレイパークゾーンからなる「環境教育テーマパーク」とし、NPOと行政の協働によって運営していくことを県に提言しました。

*同提言は同会のブログ・Facebookのページに掲載されています。

(参考)大高緑地を愛する会
 ブログ http://ameblo.jp/aisurukai/
 Facebook https://www.facebook.com/%E5%A4%A7%E9%AB%98%E7%B7%91%E5%9C%B0%E3%82%92%E6%84%9B%E3%81%99%E3%82%8B%E4%BC%9A-590940497719864/

住民に開かれたあり方議論が必要

 県に求められるのは一公園の経営という観点だけにとどまりません。上記のような提言なども踏まえながら、広域的な環境・公園行政を担う立場として、関係部署間の連携を図りつつ、さまざまな公益的な観点を踏まえて公園のあり方を検討していくことが求められます。

 その際、住民に開かれた形で公園のあり方を議論していくことが県民の共有財産として公園を活かしていく上で重要といえるのではないでしょうか。

3. 恐竜パーク事業予定地の概要

 恐竜パークの誘致予定地は名古屋市緑区にある県営大高緑地(公園)の一角にあります。

大高緑地公園とは

 大高緑地(公園)は面積約100haの県営の都市公園です。1940年に空襲の延焼を防ぐために大高緑地を含む5つの緑地(826ha)を防火緑地とする都市計画決定がなされ、1952年に事業に着手、1963年に開園しました。県内では歴史のある公園の1つにあたります。

 園内には名古屋市内では今や貴重になった自然林が広がるほか、若草山に広がる芝生広場、ゴーカートのある交通公園、水泳場、野球場、庭球場、ベビーゴルフ場、デイキャンプ場、ドッグラン、恐竜広場などの各種施設が整備されています。大高緑地では一大武将観光イベントの「東海合戦ワールド」を始めとするさまざまなイベントが開催され、公園の利用者は年間約160万人(2013年度)にのぼります。

 名古屋市は市街地の拡大とともに多くの緑が消失してきました。そうした中で、まとまった緑が残る都市公園はこの地域にとって重要な環境インフラとなっています。

事業予定地の概要

 恐竜パークの事業予定地は大高緑地の北西部、第7・第8駐車場に隣接した樹林地です。事業予定地の面積は3.2haで、雑木林が広がっています。樹林地内には第8駐車場と芝生広場が広がる若草山を最短距離で結ぶ散策路があります。

 事業予定地である樹林地について、大村秀章県知事は記者会見で「未利用地の樹林地ということなので、そこに少し民間の活力を入れて整備してその上で多くの公園利用者に喜んでいただければ」と述べましたが、地域の人や自然愛好家にとっては自然と触れ合い、親しむ場として日常的に利用されています。

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第8駐車場に隣接する事業予定地の樹林地

 

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第8駐車場と若草山を最短距離で結ぶ散策路

2. 恐竜パーク計画の概要

恐竜パーク計画とは

 名古屋市緑区にある大高緑地(公園)内、若草山西側の樹林地(3.2ha)に実物大の動く恐竜像30体を設置したコースを整備し、自動運転の電動カートや徒歩で探索することができる自然体験型恐竜探険アトラクション「ディノアドベンチャーライド名古屋」を開業する計画です。

 利用料金として、以下の金額が予定されています。

 カート(約20分、恐竜30体) 大人1300円、中学生以下900円
 遊歩道(約20分、恐竜10体) 大人300円、中学生以下200円

 

 なお、施設のイメージ画像は下記のページ(外部サイト)に掲載されています。 

(参考)愛知県ウェブサイト
 大高緑地における民間活力を活用した新たな公園施設について
 http://www.pref.aichi.jp/soshiki/koen/0000086210.html

 

恐竜パークの開業時期

 2015年10月の時点では「2016年7月頃に開業予定」と発表されていました。

施設の設置運営事業

 岐阜県郡上市で同種施設「ディノアドベンチャーライド」を運営している株式会社エヌエーオーが恐竜像、コース、売店、フェンス、その他必要な施設・設備を事業者の費用負担で設置し、運営する計画となっています。

 なお、同社は公園を保有する県に対して、愛知県都市公園条例の定めに基づく土地の使用料として年間約1300万円を支払い、施設運営で得た料金・物販収入は同社が得ることになります。

 

(参考)岐阜県郡上市にある同種施設 *外部サイト
 ディノアドベンチャーライド
 http://www.naocorporation.com/dino/

 

施設の想定来場者数

 同社が県に提出した企画提案書によると、ファミリー層を主な利用者と想定し、年間約10万人の来場者数が見込まれています。

※想定来場者数の根拠については「8.開示行政文書の検討(開示文書の公開)」のページをご参照ください。

1. 恐竜パーク計画に関する経緯

2015年10月に恐竜パーク計画発表

 愛知県は2015年10月15日、名古屋市緑区にある県営大高緑地(公園)内の樹林地(約3.2ha)に自然体験型恐竜探険アトラクション「ディノアドベンチャーライド名古屋」(以下、「恐竜パーク」)を誘致し、2016年7月の開業を予定していると発表しました。

 (参考)愛知県ウェブサイト 
 大高緑地における民間活力を活用した新たな公園施設について
 http://www.pref.aichi.jp/soshiki/koen/0000086210.html

 2015年3月から民間事業者を募集

 県の建設部公園緑地課は大高緑地の「魅力向上を図ることを目的として、既存の樹林地を活かしつつ、公園施設を設置、管理運営する」民間事業者を募集し、外部有識者で構成する選定委員会が応募した事業者の中から民間事業者を選定する手続きを進めてきました。

 具体的には、2015年3月から5月にかけて施設を設置・管理運営する民間事業者を募集し、6月の選定委員会で事業者を決定、7月から10月の事業者による現地調査・設計を経て、10月15日に県と事業者が協定を締結するというスケジュールで開業に向けた準備が進められてきました。

地元住民・自治体には寝耳に水

 ただ、公園の周辺住民や公園利用者、地元の名古屋市緑区役所は10月15日の発表までの間、この計画について全く知らされていませんでした。このため、県の発表以降、周辺住民や公園利用者から同計画に対するさまざまな意見が出されることになりました。

 県の同発表以降、同計画に対して市民から賛否両論があがっています。緑区役所も同発表で計画を初めて知り、県の担当者を呼んで説明を受けるとともに、住民の意見を聞く場を県に働きかけているとのことでした。これに対して、県は地元の区政協力委員を個別にまわって説明を行ってはいるものの、住民に対する十分な説明や住民の意見を広く聞く機会は設けていません。

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芝生広場が広がる若草山事業予定地の樹林地(写真奥)

はじめに

「恐竜パーク」計画の経緯と筆者の問題意識

 2015年10月15日、愛知県は名古屋市緑区にある大高緑地の樹林地を開発し、民間事業者が設置運営する「恐竜パーク」を開業させることを発表しました。

 この発表は地元住民や公園利用者にとっては寝耳に水であり、発表以降、事業の見直しなどを求める住民運動が展開されています。同年11月上旬の新聞報道でこのことを知った筆者は事業実施の発表までの間、何ら住民への説明や意見を聞く機会を設けなかった県の事業の進め方に問題があると考えました。

 そこで、筆者は事業の担当課である愛知県建設部公園緑地課をはじめ、関係各所への問い合わせや情報公開請求を通じて、事業に至る経緯や事業内容、民間事業者の選定過程などの検証を試みるとともに、県に対しては住民に対する説明や意見を聞く機会を設けるべきとの意見を伝えてきました。

 先日、2016年3月上旬から「恐竜パーク」の工事に着手するとの新聞報道がなされました。県は地元の区政協力委員に説明をしたとしていますが、多くの住民に十分な説明を行わないまま、着工の判断をしたといえます。

 本来、県から住民に対して丁寧に説明し、意見を聞くプロセスが必要不可欠であると考えていますが、この間の県の対応は不十分なものといわざるを得ません。

 2016年1月下旬に情報公開された文書を閲覧した際、筆者は「不安や懸念を抱く住民に対して県から十分な説明がなされないのであれば、情報公開された文書を広く公表することを考えたい」と公園緑地課の職員に伝えた上で、県として説明責任を果たされることを求めたところ、「検討したい」との回答を得ましたが、結局、聞き入れられませんでした。

本ブログ開設の趣旨

 上記のような経緯と問題意識に基づき、このたび、本問題についてより多くの方に知っていただき、お考えいただければとの思いから本ブログを開設し、お考えいただく際の素材として情報公開された行政文書を公表することといたしました。

 なお、「恐竜パーク」事業の検証を進める一環として行った情報公開請求では、十分な行政文書が開示されないなどの問題にも直面することになりました。「開かれた行政」のあり方について考える上で、参考になればとの思いから、情報公開をめぐる問題についても触れています。

 本ブログを通じて、一人でも多くの方に本問題について関心を持っていただければ幸いです。